| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-160
森林生態系の樹冠層において、クモ類は全節足動物に対して常に10−30 %の現存量を占めており、節足動物群集の重要な捕食者と考えられている。しかし、森林のクモ群集に関する情報は乏しく、実際の森林の中で、クモ類がどのような餌をどのくらい食べているのかは明らかになっていない。そこで、本研究では、森林生態系におけるクモ類の群集構造を明らかにするため、スギ人工林の樹冠層と林床においてクモ相を調査した。
調査は2008年7 - 12月と、2009年の5 - 6月に、愛知県北東部の39年生スギ人工林で、月に一度行った。樹冠層における調査には、樹高約23 m、胸高直径約 24 cmのスギを5本用いた。樹冠層ではビーティング法、林床ではピットフォールトラップによりクモ類を採集した。樹冠層における採集は、ほぼ生葉からなる上層と、枯枝葉が優占する下層にわけて行った。採集したクモ類は科まで同定を行い、重複度指数 Cπを用いて、樹冠層と林床のクモ相の共通性・異質性、季節変化を解析した。
樹冠層では、上層で15科1006頭、下層で11科661頭のクモ類が採集された。また、樹冠層の両層とも、個体数は8月から10月にかけてピークがみられた。樹冠層の上層と下層のクモ相は類似する傾向がみられたが、完全には一致しなかった。林床では、8科94個体のクモ類が採集されたが、クモ相は樹冠層とは大きく異なっていた。また、調査期間を通じて、クモ類の個体数に大きな変化はみられなかった。樹冠層、林床のいずれにおいても、調査期間を通じてそれぞれに共通の科が優占する傾向がみられたが、特定の月にのみ優占する科も存在した。
以上のことから、スギ人工林のクモ相は、空間的にも季節的にも異なることが示唆された。このようなクモ相の違いは、生息場所ごとの餌となる節足動物相やその密度、微気象などの違いを反映したものと考えられる。