| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-164
流域地質が河川生物に与える影響についての実証的な研究はほとんどない。演者らは、流域地質の多くを花崗岩が占める花崗岩渓流の、河床における砂の多さに着目し、花崗岩渓流における瀬の底生動物群集の特性について、以下の仮説を立てた。(1)花崗岩渓流では、出水時に河床表面を移動する掃流砂量が多いため、石面付着物に対する研磨攪乱のインパクトが他の渓流よりも大きく、その影響は急流域に比べ石面付着物の発達しやすい緩流域の方が顕著である。そのため、付着物食のグレイザーは、緩流域を好む種ほど生息密度は低い。(2)花崗岩渓流では、礫に占めるはまり石の割合が大きく、出水時に動く礫の割合が小さいため、流下有機物食のフィルタラーのうち、固着性のシマトビケラ科は生息密度が高い。それに対し、シマトビケラ科よりも移動性は高いが競争に弱いブユ科は生息密度が低い。演者らは、これらの仮説を検証する研究を実施中であるが、今回は、2009年春に、花崗岩渓流とそれ以外の渓流の計10地点において、瀬の大礫に定着していた底生動物の採集調査を行った結果を報告する。花崗岩渓流では、グレイザーは、ヒラタカゲロウ科、コカゲロウ科とも、比較的緩流域を好む種の生息密度が低かった(その他の渓流に対し、ミヤマタニガワカゲロウ属0.3倍、シロハラコカゲロウ0.4倍)。花崗岩渓流とその他の渓流における密度差は、急流域を好む種ほど小さかった。花崗岩渓流におけるシマトビケラ科の平均生息密度は、花崗岩以外の渓流のそれの2.7倍であった。ただし、ブユ科の生息密度には、花崗岩渓流とそれ以外の渓流で差は認められなかった。以上のように、花崗岩渓流における瀬の底生動物群集の特性について、ほぼ仮説を支持する結果が得られた。大会では、得られたパターンを生じうる砂やはまり石以外の要因についても検討する。