| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-177

GISを利用したタンチョウの営巣環境解析

*正富欣之(北大院・農), 正富宏之(タン保研)

北海道東部に生息するタンチョウGrus japonensisは,1900年代初頭に絶滅の危機に瀕したが,給餌等の保護活動により2009年1月には1,300羽を超えるまで個体数が回復した。これまでの個体群存続性分析では,環境収容力の推定基準にもよるが,シミュレーションにより10-20年後に収容力の上限に達する可能性の高いことが示された。したがって,現在の営巣環境から繁殖適地を明らかにし,繁殖可能な地域の保全を行うことが将来の個体群増加につながると考えられる。また,より確実な環境収容力を推定するためにも詳細な営巣環境の解析が必要である。

本研究では,繁殖状況調査により得られた2007年の営巣地点データ(タンチョウ保護研究グループ)および植生図(環境省・第5回自然環境保全基礎調査)や土地利用図(国土交通省国土計画局国土数値情報)等のGISデータを用い,営巣地点とその周辺の環境解析を試みた。

2007年には再営巣を除く331巣の位置が確認されたが,その地被植生の分類割合は,ヨシクラス(46.2%),ハンノキ群落(25.7%),牧草地(8.5%),開放水域(3.0%),エゾイタヤ−シナノキ群落(3.0%),その他(13.6%)となった。タンチョウの主な営巣環境はヨシの生えた低層湿地であるが,植生図上では小湿地の区分精度が粗いため、実際と乖離の生じたところがある。また,巣の8.8%は100m以内に道路があり,27.5%は100m以内に牧草地・畑地等の農地が存在した。繁殖なわばりが2-4km2と推定されているので、営巣環境は人の活動域と重なると考えられる。さらに,年変化や地域的差異についても考慮し,検討を行う。


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