| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-180
病原菌 Raffaelea quercivora を媒介することでブナ科樹木の集団枯死(ナラ枯れ)を引き起こしているカシノナガキクイムシ Platypus quercivorus は、その性比がやや雄に偏っていることが報告されている.羽化脱出時期によって性比が異なることも知られているが,穿入孔による性比のばらつきやその要因については不明である.この点を明らかにするために,カシノナガキクイムシの穿孔により枯死した Quercus laurifolia と Q. robur について,穿入孔に個別に羽化トラップを設置し,翌年羽化脱出してきた次世代成虫を1週間ごとに回収して,各穿入孔について脱出頭数を雌雄別に計数した.
脱出成虫に占める雌の割合(以下,性比)の季節変化を一般化加法モデルで非線形回帰したところ,両樹種とも脱出開始1週目の性比は 0.2 前後と推定され,その後性比は増加し,脱出開始後5〜6週目からはほとんど変化が認められなかった.本種は雄が先に寄主木を見つけて穿孔するので,脱出初期に雌が少ないことは繁殖を確実にするための戦略と考えられた.
全脱出期間を総計した性比を穿入孔別にみると,Q. laurifolia では 0〜1,Q. robur では 0〜0.8 とばらついていた.樹種を説明変数として一般化線形モデルで回帰すると,Q. laurifoliaにおける性比は 0.28,Q. roburにおける性比は 0.41 と推定された.脱出頭数が少ないときにばらつきが大きく,脱出頭数が多くなるに従ってばらつきが小さくなるパターンは,雌が生まれる確率をそれぞれ 0.28,0.41 に設定してシミュレーションすることで再現できた.