| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-185
ヨウジウオ科魚類の卵巣は、生殖隆起を起点に発生段階の順に並んだ卵母細胞のシートがロール状になった特異な構造をしている。卵巣構造には種間変異があり、複婚的に配偶するSyngnathus scovelliでは生殖隆起が1列であるのに対し、一夫一妻のHippocampus erectusやCorythoichthys haematopterusでは生殖隆起が2列存在する。また前者の卵生産様式は非同調型、後者は群同調型と異なることから、本科魚類において卵巣構造・卵生産様式が配偶パターンを決める重大な制約となっていると示唆されている。本研究ではヨーロッパ沿岸に生息するヨウジウオ科魚類2種Nerophis ophidionとSyngnathus typhleについて、卵巣組織切片の観察から卵巣構造を明らかにし、また産卵後経過日数に応じた卵巣内卵サイズ分布の変化から卵生産様式を推定した。一妻多夫であるN. ophidionの卵巣は2列の生殖隆起からなり、一夫一妻の種と同様の構造をしていた。卵生産様式も一夫一妻の種と同じ群同調型であったが、本種では排卵後も新たな卵成熟が進行する点で一夫一妻の種とは異なる。一方、多夫多妻であるS.typhleの卵巣は生殖隆起が一列であり、同じく多夫多妻のS.scovelliの卵巣構造と一致した。卵生産様式は不明確ではあるが、産卵直後の雌の卵巣内に成熟卵が存在すること、様々な成熟段階の卵母細胞が同時に存在することから非同調型と推定された。本研究からこれら2種のヨウジウオ科魚類においても卵巣構造と卵生産様式に対応関係があることが示された。本結果はヨウジウオ科魚類において、卵生産様式が雌の産卵周期の長さに影響することで、実現可能な配偶パターンの幅を規定すると共に、性役割を決定する主要因となることを強く示唆している。