| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-192
性転換には雄性先熟(雄から雌)と雌性先熟(雌から雄)の2つの方向があるが、近年の研究によって、この両方を行う、つまり双方向の性転換が可能な魚種が次々と見つかってきている。しかし、双方向性転換についての研究のほとんどは飼育下または野外における実験操作によって性転換を誘導したものであり、自然条件において双方向性転換を引き起こす要因はほとんどわかっていない。また、多くの研究は性転換能力の存在を報告するに留まっているため、双方向性転換がどのような生態的条件のもとで進化するのかについては不明な点が多い。とくにベニハゼ属Trimmaは多くの種で双方向性転換が確認されているうえ、どちらの方向の性転換も1週間程度の短期間で完了するという興味深い特徴を持つが、このような性質の適応的意義は明らかになっていない。この点についてより研究を進めるには、自然条件で双方向性転換を確認し、その条件を詳しく調査するとともに、双方向性転換能力を持つ種の生態的特徴を調べる必要がある。そこで本研究では、ベニハゼ属の一種ベニハゼT. caesiuraを対象とし、自然条件で性転換の起こる条件を調査するとともに、この種の個体数変動や生活史に関する基礎的なデータを収集している。具体的には、沖縄県瀬底島において、設定した調査区内に生息する個体を可能な限りすべて採集し、計測、性判定、標識を行った後に放流するという作業を繰り返すことで、個体数、性比、性転換、移動、社会条件、成長に関するデータを得ている。これまでにほぼ2年間にわたって継続的な調査を行い、数例の性転換を確認したほか、大きな個体数および性比の変動などの興味深い知見も得られている。本発表では、性転換の起こった状況と、ベニハゼの生態に関する知見を総合し、ベニハゼ属に見られる非常に可塑的な性表現の究極要因について議論する。