| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-198
真社会性を持つシロアリ類には、明確な繁殖上の分業が見られる。その社会は一夫一妻の家族を基本とし、繁殖を行う生殖虫と不妊のワーカーやソルジャー等で構成される。しかし、コロニー創設期はワーカーがおらず、生殖虫は卵や幼虫の世話をする必要があるため、繁殖に専念する事ができない。木材は多量に存在するが餌資源としては利用しにくいため、シロアリ類にとって親の育児への投資は多大である。従って、コロニーの発達に伴いワーカーが出現する事で、生殖虫は子の世話から解放され、自身の繁殖に専念できるようになると考えられる。シロアリ類の真社会性の進化には、この給餌システムの変化が重要だったとされるが(trophic shiftモデル)、これを支持する実験的な証拠は皆無である。
本研究では、コロニーの発達に伴う給餌システムの変化の重要性を明らかにする事を目的とし、創設から約30日、50日、100日と400日後のコロニーにおけるヤマトシロアリの女王と王、及び野外の補充生殖虫を用いて、繁殖形質(卵巣小管数と王の精巣サイズ)と木材の摂食能力(内源性セルラーゼ遺伝子の発現量)の変化を調べた。その結果、ワーカー数が多い発達したコロニーの生殖虫は、繁殖形質を大きく発達させていたが、他の時期の生殖虫と比べて木材の摂食能力が低い事がわかった。生殖虫は、ワーカーが増加する事で幼虫の世話を行う必要が無くなり、またワーカーから給餌を受け効率的に栄養を得て繁殖に専念できていると考えられる。以上の結果はtrophic shiftモデルの概念と一致し、給餌の担い手が生殖虫からワーカーへ変化する事が、コロニー内における繁殖上の分業に大きく関わっている事を示唆する。木材消化に関わる共生原生動物の体内量の変化に関する解析結果も踏まえ、シロアリ類のコロニーにおける給餌システムの変化の重要性を総合的に考察する。