| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-HS13
完全な夜行性動物であるムササビは、本州・四国・九州の平地から亜高山帯にかけてのまとまった森林に生息し、植物の葉や芽、実、樹皮などを食べて生活する。前足から後ろ足にかけて発達した皮膜を使って、木から木へと滑空する。私の所属する生物部では、丘陵地に生息するムササビの生息環境の要因を調べてきたが、幼獣が4〜6月と9〜10月によく巣から落下することがある。落下した幼獣は死亡することが多い。そこで、幼獣の成長、樹上での運動能力、体重の変化と餌の関係、また餌植物の嗜好性と葉の成分を調べる目的で、2007年5月から2009年3月に行った。今後ムササビの保護や森林をどう保全していくか等を考える基礎資料となればありがたい。
調査の結果次のことが分かった。(1)幼獣の体重は段階的に増加し、生後約4ヶ月で500g前後となり安定期に入る。それ以後は生後約300日まで徐々に増加し、750g程度で安定する。1日あたりの体重増加量は、体重75-100gと、300-400gが最も大きく、7.0〜7.6g/日であった。(2)総摂食量と体重、総摂食量とフン量には有意な正の相関が見られ、特にリンゴ摂食量と体重に有意な正の相関が見られた(p<0.05)。(3)枝を固定した場合、より太い枝を好んで利用し、固定しない場合と比較し利用率は上がった。安定枝では餌の樹種を選び、不安定枝では樹種より掴みやすさを優先させていた。直径15mm以上の枝では、両手を空けることができた。(4)餌植物の嗜好性と葉の成分分析を行った結果、秋から冬にかけては、酢酸の含有量が多いほど嗜好性が見られることが示唆された。今後さらに研究を進め、運動能力や食物の嗜好性を調べたい。