| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-002

無顎類カワヤツメ陸封集団における生活史可塑性の検証

*山崎裕治,長井輝美(富山大・院理工),稲葉修(南相馬市博)

無顎類カワヤツメLethenteron japonicumは,一般に寄生性・遡河回遊型の生活史を持つ.しかし最近,東北地方を流れる河川のダム上流部において陸封された集団の存在が確認された.これら個体の成熟体サイズ(全長約15cm)は,寄生性・遡河回遊型個体のそれ(同34-52cm)と比べて著しく小さく,前者は非寄生性・河川型の生活史を持つと考えられている.これに対して,本研究において,寄生性・河川型の生活史を持つと考えられる大型成熟個体(同37cm)が同一流域において捕獲された.そこで,これら異なる生活史を持つ個体が,生活史の可塑性として単一の集団から産み出されているのか,あるいは異なる集団に由来するのかを明らかにするために,マイクロサテライトDNAマーカーを用いた集団構造解析を行った.解析においては,ダム上流部から採集された個体に加え,同一河川のダム下流部および周辺河川から採集された寄生性・遡河回遊型個体を対象とした.ベイズ法に基づく集団構造の推定を行った結果,2つの遺伝的クラスターの存在が示唆された.ダム上流部の非寄生性・河川型の矮小成熟個体は,一方の遺伝的クラスターに由来した.これに対して,ダム上流部で捕獲された大型成熟個体は,ダム下流部の寄生性・遡河回遊型個体と共に,他方のクラスターに由来すると判定された.このことから,ダム上流部に出現した異なる生活史は,単一集団における表現型可塑性ではなく,それぞれ異なる集団に由来する可能性が考えられる.


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