| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-003
両生類幼生における変態時期の可塑性が様々な生物的・非生物的要因の変化によることは多くの飼育実験から知られている。しかし個体レベルで観察される変態時期の可塑性が野外の両生類幼生集団の齢構成にどのような影響を与えるのかはほとんど知られていない。北海道に生息するエゾサンショウウオの幼生にはパーマネントな水たまりを利用している集団がある。そのような集団では幼生は孵化した年に変態せず越冬する。しかし1年越冬し翌年に変態する集団もあれば2年越冬し3年目に変態する集団もあり、このような越冬年数の変異は以前から報告されてはいたが、その変異の要因は分からなかった。
エゾサンショウウオ幼生を用いた飼育実験と野外調査を行った。飼育実験では飼育水温(15度と20度)と餌種(冷凍赤虫と同種幼生(共食い))の変態時期に与える影響を調べた。15度で飼育または餌として冷凍赤虫を与えると、20度で飼育または餌として同種を与えたエゾサンショウウオ幼生に比べて変態期間は長くなった。野外調査では、ほとんどの調査対象である水たまりが低水温であるため、エゾサンショウウオ幼生密度(共食い頻度の指標:幼生密度が高いと共食い頻度も高い)の越冬年数に与える影響だけを調べた。エゾサンショウウオ幼生密度が低い(共食い頻度が低い)集団は高い集団に比べて越冬年数が伸びた、つまり1年越冬から2年越冬に伸びた。本研究では越冬年数の変異が低水温による変態時期の延長と共食いによる変態時期の短縮によるものであることを示した。水温や餌種に対する変態時期の可塑性は野外における集団レベルの齢構成に大きな影響を与えるのかもしれない。