| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-017

秋から初冬にかけてのエゾヤチネズミの体液性免疫反応:齢および繁殖状態の違い

楠本華織(佐賀大院・農)

エゾヤチネズミのほとんどすべての個体群において、密度依存的な個体数の減少が冬季に強く生じることが知られている。生命の維持に重要な生理機能である体温調節機能と免疫機能に着目し、密度依存的な個体数減少のメカニズムを解明するため、飼育実験下における研究がなされてきた。本研究では、秋から初冬の野外環境下において、標識再捕獲法を用い、野外でのエゾヤチネズミの免疫反応を調べた。野外実験の結果より、9月では、未成熟個体の抗体価は、成熟非繁殖個体よりも有意に低かった。これは未成熟個体が生長過程であり、生長にコストがかかり、免疫機能よりも生長に資源を投資するため、抗体価が低いと考えられる。また、繁殖個体と非繁殖個体で有意な違いはみられなかったが、繁殖個体の抗体価の方が低い値を示した。これは、繁殖にコストがかかり、免疫機能よりも繁殖に資源を投資していることを示唆するだろう。さらに、11月の非繁殖個体の抗体価は、9月のものよりも低い値を示し、内蔵肥大も見られた。これは、実験室で得られた餌の効果の実験結果とよく似ていた。つまり、低温および低資源の影響により、短日の効果で高められた免疫機能が弱まり、かつ内臓が肥大すると考えられる。これらの実験の結果から冬季の密度依存的な個体数の減少との関係を考察する。個体群の構成に着目すると、高密度個体群では、低密度個体群よりも、未成熟個体数や繁殖で消耗した個体数も多いだろう。これらの個体は免疫機能が低く、生存力も弱いと考えられるため、秋から初冬までの間に死亡しやすいと推察されるが、冬季条件下において生長および繁殖が抑制されることから、エゾヤチネズミにおける冬季の密度依存的な個体数減少は、冬の低温下における資源不足が主要因として生じると考えられる。


日本生態学会