| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-029

深海ハコエビに付着するヒメエボシの生活史と宿主上での分布

*山口幸(海洋研究開発機構), 金子篤史(沖縄美ら海水族館)

ヒメエボシ Poecilasma kaempferi は、タカアシガニなどの深海性の甲殻類に付着する有柄フジツボである。弘(1937)において、ヒメエボシは「すこぶる美麗である」と賞賛されているにも関わらず、その小ささ(大きくても全長2cm程度)ゆえに、宿主の影に隠れ、着目されることが少ない生物であり、その生活史は謎に満ちている。そこで、沖縄美ら海水族館のバックヤードで飼育されている深海ハコエビ9個体(全てオス個体)についてエビの体長を測定し、ヒメエボシがハコエビのどの位置についているかを記録用紙にプロットした。その後、ハコエビからヒメエボシを採取し、無水エタノールで固定した。その結果、ハコエビの体長はほとんど大差ないにも関わらず、ヒメエボシの頭状部の長さに大きなばらつきがあるエビとばらつきのないエビがいることがわかった。また、ヒメエボシは水流を受けやすいところに付着する傾向があるとみられ、ハコエビの頭胸部と第一腹節の境目や歩脚の第三関節部分に集合していた。水流を受けやすいところに付着することでえさが取りやすいと考えられる。また、ヒメエボシが集合しているところでは、繁殖相手を簡単に得やすいと考えられる。ヒメエボシは雌雄同体であることが知られているが、小さな雄(矮雄)の報告はまだない。今回の調査で矮雄と見られる個体(同種個体に付着する小さな個体)が数多く見られた。一般的に矮雄が出現する条件は、雌雄同体の場合、繁殖集団が大変小さいときと言われている。しかし、同種個体に付着したヒメエボシが大きく成長した標本も観察された。このことは、ヒメエボシは小さいうちは雄機能だけを持ち、後に雌雄同体として繁殖するという生活史を持っているのではないかと示唆される。


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