| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-034

マダガスカル西部乾燥林におけるカメレオンの生活史特性

*高橋洋生(自然研), 森哲(京都大・理), 長谷川雅美(東邦大・理)

マダガスカル島の西部地域では、1年が明瞭な雨季と乾季に分けられ、生物学的様相は両シーズン間で一変する。発表者らは、同地域のアンカラファンツィカ国立公園において、最も普通に見られる脊椎動物の一種であるハナツノカメレオンFurcifer rhinoceratus(有鱗目:カメレオン科)の生活史を調べた。調査は2003-2006年に記号放逐法とセンサス法を用いて行なった。乾季の間、カメレオンはほとんど見られなかったが、11月後半に雨季が始まると、地中に産み込まれていた卵から孵化した頭胴長25mm程度の幼体の出現によって、発見個体数は一気に増加した。孵化個体は、その後急速に成長して約2カ月で60mmに達し、その中からは繁殖するものが現れた。一方、雨季開始に伴い、前年以前に生まれた年級群(頭胴長60-80mm)も出現し、これらの個体は12月前半までにオス130mm・メス80mmに達して繁殖した。本種全体としては、繁殖は雨季を通して続いたが、参加個体の構成は前半と後半で全く異なっていた。前半には前年生まれの年級群が大きい体サイズで、後半には当年生まれの年級群が小さい体サイズで、それぞれ繁殖した。また、3年間の調査を通じて再捕された個体はいなかったことなどから、個体の寿命は短く、おそらくほとんどの個体が繁殖後に死亡していると推測された。以上のことから、本種の中には、孵化したシーズン中に小さい体サイズで繁殖するものと、翌シーズンにより大きい体サイズで繁殖するものの2つのタイプが存在する可能性が導かれた。トカゲ類というよりむしろ昆虫類のようなハナツノカメレオンの生活史戦略は、気候変化の大きい生息環境への適応と考えられる。


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