| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-163
トキは、かつて里山生態系を代表する鳥であったが、狩猟や水田における農薬使用などの影響により日本個体群は絶滅した。環境省は、日本個体群と遺伝的に同一とされる中国個体群のトキ保護増殖を推進し、2008年より試験的放鳥を行っている。野生動物の再導入あたり、存続可能な個体群が維持できる環境の維持が不可欠とされるが、現在の佐渡における水田環境は、圃場整備や河川改修により生物は著しく減少している。本研究は、トキの再導入にあたって採餌環境および水田生態系復元の両視点から、トキと農業が共生できる水田管理および環境創出方法を提言することを目的に、1)有機農法、2)湛水環境創出 による生物量や種多様性の増加に対する効果について年間を通じて評価を行った。有機農法による効果検証では、栽培管理法の異なる慣行田、耕起有機田、不耕起有機田を対象とし、栄養段階および分類群ごとの生物量、種多様性を比較した。その結果、有機農法による生物への効果は、動物プランクトンおよびイトミミズ量等の栄養段階下位までしかみられず、水生昆虫や魚類などの上位栄養段階にはみられなかった。一方で、年間通じて湛水環境である水田内水路の水生昆虫や魚類の生物量が、有機田よりも高かった。そこで、水田内水路の新規創出が生物量および種多様性の増加に与える影響を、立地環境の違い(周囲森林面積から区分した里山環境と平場環境)を考慮し、水田と比較した。その結果、水田内水路は創出1年目から水生昆虫の生物量や種多様性が高まり、特に里山環境ではトンボ目、平場環境ではコウチュウ目に効果がみられ、2年目においても持続的な効果が示された。しかし、水田内水路を創出した水田では、効果が認められなかった。これらより、採餌環境および水田生態系の復元には、有機農法を取り入れるだけでなく、周辺環境を考慮し、水田周辺に湛水環境を創出することが重要であると考えられた。