| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-169
日本の伝統的な農村景観である里山地域では、数世紀にわたる農業の営みによって水田や畑、畦畔、採草地、雑木林、植林など二次的自然から構成されるモザイク状の景観が循環的に維持され、多様な生物の生息地となっていた。しかし、化石燃料の使用の普及に伴う薪炭林の利用停止や、過疎化・高齢化の進行に伴う労力不足による農地の耕作放棄など、人為干渉の縮小に伴い、生物多様性の低下が危惧されている。一方で、野生動物による農林業被害は、近年急激に増加しており、農林業意欲の低下や耕作放棄地の拡大の原因になるなど、全国各地で様々な問題を引き起こしている。また、耕作放棄地や管理が停止された雑木林は野生動物の生息に好適な環境を提供することから、里山地域の農業生態系は、野生動物の増加と農林業活動の継続意欲の減退、耕作放棄地の増加と生物多様性の低下、といった負のスパイラルに陥っていると考えられる。これらの問題は、生態的な環境要因だけでなく、農業に関する社会的な要因と密接に関わっていることから、里山地域を社会−生態システムとしてとらえたうえで総合的な対策を実施する必要がある。
栃木県佐野市では、近年イノシシが急激に増加し、農作物被害など様々な問題を引き起こしている。現在、柵の設置や個体数調整を中心とした対策が行われているが、根本的な対策を行うには、周辺地域の生息環境の変化から被害の発生メカニズムを理解する必要がある。本研究では、1945年、1966年、2004年の航空写真の解析から栃木県佐野市周辺の里山地域における景観構造の変遷と生態的な環境要因および社会的要因との関係を明らかにし、イノシシによる農業被害との関係について議論する。