| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-173
釧路湿原では近年、ハンノキ林の拡大など、自然環境が変わりつつあり、それには、湿原内外の開発行為にともなう土砂や栄養塩の流入が原因のひとつではないかと指摘されている。元来、湿原では低温、高水分環境下で有機物が蓄積して泥炭を形成していくため、枯死植物の分解に伴う栄養塩の循環が抑制された環境であると考えられるが、土砂の流入は直接、植物に栄養を供給するばかりでなく、土壌微生物の分解活動を促進することにより間接的に可給態の栄養塩類を富化し、植生などに影響を及ぼしている可能性もある。一方、釧路湿原の西部から南部にかけて、洪水の防止を目的とした堤防(右岸堤防)が作られている。堤防は湿原内部の水理だけでなく、堤防構築でもたらされた多量の土砂が周辺の生態系に影響を及ぼしていると思われる。そこで、堤防が周辺の土壌・水質の理化学性に及ぼす影響およびこれらと微生物活性との関係を調査した。
【調査地・方法】湿原内部の赤沼付近(主として中間湿原)および鮭マス捕獲場付近(主として低層湿原)において堤防と垂直に調査線を設定し、表面水水質(pH、EC、無機元素含量)、表層土壌の土砂混入量(灰分率)、土壌酵素活性などを測定した。
【結果】表層土の灰分率は堤防付近では60%近くを占めたが、離れるにつれて徐々に低下し、400m離れた地点では5%以下であった。表面水のCa含量は堤防から200mぐらいまでは20ppm、pHは6.2-6.3であったが、それ以遠ではCa含量、pHともに低下し、同じくSi含量も堤防から離れるに従い徐々に低下するなど、堤防の影響が示唆された。土壌中のフォスファターゼ活性は堤防に近い地点で高く、灰分率と正の相関関係が認められた。グルコシダーゼ活性と灰分率との関係は明瞭でなく、植生、微地形など他の要因が関与していると考えられた。