| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-176
落葉広葉樹と常緑針葉樹によって構成される針広混交林の維持機構に関して、林冠攪乱に対する種の反応の違いなどによることが明らかにされてきた。一方、ニホンジカの森林動態に関する影響が顕在化しており、その影響も考慮する必要がある。そこで、山梨県北部のブナ−ウラジロモミ林において、ニホンジカの剥皮が動態に及ぼす影響について調査を行った。2003年、1.2haの調査区を設定し、調査区内で胸高直径3cm以上の生立木・枯立木を対象に毎木調査を行い、ニホンジカによる剥皮の有無も記録した。2009年5月、再計測と剥皮の有無を記録した。Ivlevの選択係数による落葉広葉樹の剥皮嗜好性は嗜好種(26種、968本)、忌避種(31種、329本)に分類され、常緑針葉樹のウラジロモミ(813本)と合わせた3種群ごとに解析を行った。調査地周辺におけるニホンジカの糞塊密度は2003年の42.4個/kmから2008年の126.1個/kmに急増していた。総剥皮本数は2003年の126本から2009年の509本に増加しており、両年ともウラジロモミが約8割を占めていた。立木密度の死亡率が新規加入率を上回っている種は、嗜好種の50%(ナナカマド、ミヤマアオダモ、アサノハカエデなど)、忌避種の約30%(タカネザクラ、ミヤマザクラ、イタヤカエデなど)を占めており、ウラジロモミも死亡率の方が上回っていた。推移行列によって求めた各種群の将来のサイズ構造は、個体群成長率(λ)が各種群および各種群内での剥皮の有無によらず1以下であることから、林分としての衰退が推測された。また、嗜好種のλは剥皮によって低下したが、ウラジロモミでは剥皮のある方が高く、競争などによる影響による方が大きかった。これらの結果から、種群による死亡要因の違いが針広混交林の維持機構に影響を及ぼしていることが推測された。