| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-183

人工干潟の生物分布特性は,どのように自然状態に近づくか? その2:フトヘナタリの場合

*河井崇(阿南高専・地域連携テクノセ),大田直友(阿南高専・建設システム工)

ねらい:その1で.

方法と結果:フトヘナタリは殻長<45mmの巻貝で泥〜砂質干潟に分布している.大潟においては高〜中潮位域にかけて優占しており,山土区の密度は浚渫土区より約2.5倍高かった.そこで,フトヘナタリの分布と底質との関連性解明のため,野外底質入れ替え実験を行った(方法はその1で).実験設定後3年間,2種類の溝,及び対照区として何も処理を加えていない溝(山土対照区)において密度調査を継続している.

山土実験区におけるフトヘナタリの密度は浚渫土実験区より高く,その差は徐々に広がり3年後に約2倍となった.また,山土実験区と山土対照区の密度は,3年目に有意差が見られなくなった.さらに,自然干潟である那賀川・勝浦川両河口干潟における砂質・泥質部で密度調査を実施したところ,砂質部の密度は泥質部より顕著に高く約3〜5倍であった.また,山土対照区と自然干潟砂質部の密度は同程度であった.

考察:両種の分布特性の違いは明確であり,シオマネキは泥質に対する選好性が強く,細粒分の多い浚渫土実験区のみに生息した.ただし,稚ガニの加入・生息への物理的制限要因の存在が示唆された.一方,フトヘナタリは山土を選好したが,浚渫土区にもある程度分布し,底質選好性はシオマネキほど強くなく,その要因として巣穴の有無や摂食方法の違い等が考えられる.特筆すべき点として,実験区への移入はシオマネキが早かったが,すぐに密度が頭打ちとなり3年経過後も自然水準に達しなかった.しかしながらフトヘナタリは, 初期反応は遅かったものの3年経過後自然状態同様となった.これらの希少種が豊かに生息する干潟創出のためには,種による分布特性の違い,特に異なる生活史や年級群による変化,さらには時間的な反応性を考慮することが必要である.

本報告は,水産庁・水産基盤整備調査委託事業の成果の一部である.


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