| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-186

砂州上の植生の窒素源における安定同位体N15の役割

*小田切宗一郎 , 浅枝隆,内田哲夫

近年の多摩川において,河原固有の植物が衰退している一方でクズ(Pueraria lobata),アレチウリ(Sicyos angulatus)などの繁殖力旺盛なつる植物が河川敷へ侵入,優先しており,これらの植物の生態についての知見が必要とされている.本研究の目的は,クズ,アレチウリの生態と,攪乱に対する応答の解明である.

多摩川の中流域において,特にクズ,アレチウリが繁茂しており土壌条件や周辺植生が異なる府中四谷付近,大栗川合流点付近,狛江付近の3地点を調査地として,2008年度6〜1月,2009年度4〜11月において,月1〜2回の頻度で土壌と植物のサンプリング,植生調査を行った.次に,大学にて土壌については含水比,粒径,栄養塩,窒素安定同位体比の計測を,植物については形体の記録とバイオマス,栄養塩,窒素安定同位体比の計測を行った.

3地点の土壌における窒素含有率を比べると,大栗川合流点,狛江地点,府中四谷地点の順に高い値を示し,この傾向は,炭素含有率,含水率においても同様であった.またアレチウリ,クズとその生育土壌の栄養塩を比較したところ,アレチウリの栄養塩が土壌の栄養塩の値と正の相関を示す一方,クズは土壌の栄養塩によらず一定の栄養塩を保っていた.またアレチウリとクズの窒素安定同位体比の結果より,クズの根粒菌からの窒素供給率を求めたところ,土壌環境の違う3地点において違いがあり,貧栄養な土壌であるほど根粒菌からの窒素供給率が増加する傾向が確認できた.

以上より,窒素が限られている状態の氾濫原において,アレチウリは冨栄養な土地においてのみ繁茂し,冨栄養な土壌であるほど大きく成長する一方,クズは貧栄養な土地においてさえ,共生する根粒菌から窒素を得ることで一定の栄養塩を確保し繁茂することが分かった.


日本生態学会