| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-199
日本最大のサンゴ礁である石西礁湖は、枝状ミドリイシ(以下、枝サンゴ)群集の衰退が著しく、水産資源の減少要因の一つと考えられている。本研究では、枝サンゴ群集の回復阻害要因を検討し、有効な保全管理策の立案に役立てるため、石西礁湖内の枝サンゴ群集が健全な場所と長期間回復していない場所のそれぞれで4地点を調査定点として設け、1)環境要因測定(栄養塩および堆積環境を年4回)、2)幼生加入量調査(各地点に8×8cmの着生基盤を2枚1組5セット設置)、3)成群体の生残・成長比較実験(各地点に長さ10-15cmの枝サンゴを10本ずつ移植)、を行った。
その結果、栄養塩に関しては、海水中の粒子状窒素量およびクロロフィルa(Chl a)量が未回復地点で有意に多く(P<0.05)、特に夏季は、ほとんどの未回復地点でChl a量が0.5μg/Lを超えていた。ちなみに、サンゴ礁域では、Chl a量が0.5μg/Lを超えると富栄養状態と判定される。海水中のリンおよび堆積物中のリンや窒素量、また堆積物中のシルト含有率等には、健全な地点と未回復地点の間で差異はなかった。次に、幼生加入量は、いずれの地点でも、着生基盤一枚あたり0.5個体以下と少なかったが、特に未回復地点では健全な地点の半分以下であった。この加入群には、枝サンゴ以外の種も含まれる可能性があるため、実際の枝サンゴ加入量はさらに少ない。一方、移植した枝サンゴ群体は、いずれの地点においても、3カ月以上生き残って、2〜10%の正常な成長が記録され、成群体の生育阻害要因の存在は認められなかった。これらの結果から、1)海水の富栄養環境がサンゴの(特に着生直後の幼体期において)競争相手となる藻類の成長を促すこと、2)幼生加入量が個体群を維持・回復できるレベルに達していないこと等が回復阻害要因として推察された。