| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-203
生物多様性保全のためには,様々な生態系に応じて,地域レベルでの適切な自然への関わり方をデザインする必要がある.そこで本研究では,日本の地域性に適合した人間と自然の関係を評価するための共通構造(デザインルール)を発見することを目的とした.
日本の価値観を反映した地域財の評価に「百選」がある。中でも「にほんの里百選」「平成の名水百選」のような人と自然の関わりに関する百選には,自然との共生の知恵があると考えられる.これら13の百選の選考基準54項目を参考に,「自然の良好な状態」や「地域活性化」といった19の要素を構築,因果関係をISM(Interpretive Structural Modeling)法で整理し,人と自然の関係のデザインに役立つ知見を抽出した.関係の判断は個人の価値観に依存するため,複数人にアンケートを行ってデータを得た.結果「自然の価値へ認識が深まり,自然が良好な状態なことで精神的充足を得る」「地域特性をシンボル化する」という,8つのデザインルールを得た.
各ルールの共通性を評価するため,選考理由が明確な百選の,近畿圏に存在する事例(52例)をサンプルに含有割合を算出した.結果「文化的特異性や景観により文化的価値が生じる」というルールの含有割合が50%と高かった。これは百選対象の特別性を出すためと推察され,文化性を重視する価値観の表れと考えられる.
また各ルールを人と自然の関係をDPSIR(ドライビングフォース,負荷,環境状態,影響,対応)の枠組みに当てはめると,7つにR(対応)があり,日本では自然から得られる恵みのみを評価するのではないことが分かった.
よって日本では,自然との関係から生まれるものの文化的価値を再認識すること,人の自然への働きかけを評価することで,地域の中で自然財が保全される可能性があることが示唆された.