| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-218
近年、日本各地でニホンジカ(以下シカとする)の個体数が増加し、農林業や自然植生に大きな影響を与える問題が発生しており、多くの都道府県では個体数指標を用いた生息密度管理を行っているが、これらの方法は個体数を過小評価してしまうことが問題(宇野ら,2007)となっている。そのため、個体数指標に替わり、生息地の環境からみたシカの生息密度を表す指標が必要とされている(Mysterud,2006)。そこで本研究では、生息地の環境としてシカによる樹皮剥ぎという現象に着目し、シカの嗜好性樹種の樹皮剥ぎの発生頻度が生息地のシカの生息密度を表す指標となるかどうか検証した。
本研究の対象地である東京都奥多摩地域は、シカが10頭/km2以上の高密度で生息している北部地域と数頭〜10頭/km2の中密度で生息している中部地域、0〜数頭/km2の低密度で生息している南部地域に分ける事が出来る。2009年の8月〜10月にかけて東京都奥多摩地域において、1kmメッシュの調査区画を北部地域で10カ所、中部地域で11カ所、南部地域で16カ所選び、区画内にある登山道沿い片側5mにある嗜好性樹種を20本測定し、樹皮剥ぎ率を調べることで、嗜好性樹種の樹皮剥ぎ率とシカの生息数の動向の関係を調べた。
その結果、アオダモとリョウブの2種の樹皮剥ぎ率がシカの生息密度を示す良い指標となると考えられた。そのうちアオダモの樹皮剥ぎはシカが低密度時には生じず、中密度から高密度時に生じるので、アオダモの樹皮剥ぎ率はシカの中・高密度を示す指標となると考えられた。一方、リョウブの樹皮剥ぎはシカが低密度時から生じ、中密度から高密度時にかけても生じていることからリョウブの樹皮剥ぎはシカの低密度から中・高密度までの生息動向を示すよい指標となると考えられた。