| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-340
金沢大学は、2007年より文部科学省科学技術振興調整費を受け、能登の豊かな自然環境を活用して環境配慮型農林漁業やグリーンツーリズム等に取り組もうとする20〜40代の若者を対象に、地域再生の核となるリーダー人材に育成することを目指し、「能登里山マイスター」養成プログラムを運営している。大学が過疎化の進む地方に拠点を構えて人材育成に取り組む、全国に先駆けた事例である。週末を利用した2年間のカリキュラムの大きな柱となる教育プログラムのひとつが『水田生物調査実習』である。食糧生産の場である水田において生物をみる視点や生物多様性とは何かを伝えるべく、1年間を通じて調査地選定から生物採集、標本作成・整理、データ分析・報告までの一連の作業を受講生自身が取り組む内容としている。本発表では、2年にわたり取り組んできた実習内容の紹介とともに、受講生の実習レポートの分析を通じて、当初想定していた実習のねらいに対してどの程度目標が達成されたかの検証を行った。この結果を元に、生物多様性の意義を伝えるための一般社会人を対象とした効果的なプログラムのあり方について議論を行った。
本実習では、新規就農希望者のみならず、自治体・JA職員など異なる対象に対して同一内容のプログラムを提供するため、興味関心のレベルの違いや作業の不慣れさから一連の作業に苦痛を訴える声もあり、これに対しては初学者を対象とした実習方法に更なる改善が必要であった。一方、効果的と思われた内容として、調査結果が明らかになる前のサンプル採集の時期に、環境配慮型農法と生物の関連を調査した他地域の事例結果を紹介するレクチャーを取り入れる事で、単調になりがちな現地調査に対する動機を維持し続けることが可能だった。