| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
シンポジウム S05-4
私たち人間は、外来種問題を認識し対応する主体である。本報告では、釧路湿原流域のウチダザリガニをめぐる外来種問題を事例に、この主体の側の多様性に着目する。そして、順応的管理と協働による解決が求められている外来種問題の制度的枠組みをポリティカル・エコロジーの視点から再検討する。
近年、釧路湿原流域で急激に増えてきたウチダザリガニは、2006年に外来生物法(通称)の特定外来生物に指定された。国内外の生態学的な知見から、絶滅が危惧されているニホンザリガニとの巣穴をめぐる競合や、水草の切断など、生態系へのさまざまな影響が懸念されている。一方で、ウチダザリガニをめぐっては、行政・専門家と漁業・観光業を営む地域住民との間で社会的軋轢が生じていた。それは、釧路湿原東部の塘路湖で漁を営んできた地域住民の「なんでもかんでもウチダザリガニが悪いわけではない」という言葉に象徴される。地元の漁師は、塘路湖周辺でニホンザリガニが減少した主な要因は塘路湖上流域のカラマツ林への殺鼠剤の散布だという。また、ニホンザリガニは塘路湖に流入する小川に生息し、ウチダザリガニは湖に生息しているという。このように、社会的軋轢の基底には、地域の歴史的な出来事や自然環境の特徴から、ウチダザリガニの外来種問題を認識する「もうひとつの生態学的な知見」が存在していた。また、ワカサギ漁の網に入ってくるウチダザリガニへの自助努力的な対応策として特定外来生物指定の前に漁業権をとり、釣堀・バーベキューなど新たな観光資源としても有効活用していた。つまり、外来生物法の中央集権的な防除のシステムとは異なるが、そこには地域社会に根ざした対応のシステムが存在していた。
外来種問題を順応的管理と協働によって解決するためには、「認識」と「対応」のそれぞれの段階で、多様な主体の生態学的な知見と行為をつなぎあわせることを可能にする制度的枠組みを構築する必要がある。