| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
シンポジウム S07-1
対流圏オゾン(O3)が再び大きな問題になっている。日本で測定されている光化学オキシダント(その大部分がオゾンである)の濃度は、1980年代後半から全国の測定局で上昇し、その年平均濃度は1985〜2007年度の間に、約0.25ppbv/年(1%/年)の割合で増えている。さらに、光化学オキシダント注意報を発令した都道府県は徐々に増加し、2007年には28都府県に達して観測史上最大となり、汚染地域が拡大している。2007 年5 月8 日から9 日にかけて、九州をはじめ西日本の広い範囲で光化学オキシダント注意報が発令され、大きな社会問題になったことは記憶に新しく、同様な現象は2008 年、2009 年にも発生した。また、離島や山岳のような清浄地域でもオゾンが増加していることが報告されている。
対流圏オゾンは、工場や自動車などから排出された窒素酸化物や揮発性有機化合物が大気中で光化学反応を起こすことによって生成される。しかし、日本では発生源規制等によって、これらのオゾンの原因物質は年々減少している。なぜ原因物質が減少しているのにオゾンが増加しているのか。なぜ発生源が近くにない地域でもオゾンが上昇し、汚染が広がっているのか。これらの原因の1つとして、アジア大陸からの越境汚染の影響が考えられる。経済成長が著しいアジア地域では、火力発電所、工場、自動車等による化石燃料燃焼などによって発生する大気汚染物質が急増している。これに伴って、オゾンやその原因物質が大陸風下の日本に運ばれて、日本のオゾン濃度が広域的に上昇していると考えられる。そこで、我々の研究グループは、アジア地域の大気汚染物質排出インベントリを作成し、観測データも活用して、東アジア地域における広域・越境大気汚染のシミュレーション研究を進めている。本発表ではこれらの研究結果について紹介する。