| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


シンポジウム S07-2

オゾンによる樹木の光合成影響

北尾光俊(森林総合研究所)

オゾン濃度の上昇は植物の光合成に悪影響を及ぼし,成長を低下させる。近年,大陸からの長距離越境汚染によるオゾン濃度の上昇が報告されており,我が国の森林生態系への影響が懸念されているところである。オゾンの樹木への影響は苗木を中心として研究されてきた。苗木のような小さな個体を対象にした場合はそれぞれの葉が受ける光の量に大きな差違はないが、大きな樹や森林を対象にするときには樹冠内の光勾配を考慮してオゾン影響を評価する必要がある。本発表ではヨーロッパブナ成木を対象としたオゾン暴露実験についてドイツのミュンヘン工科大学と行った共同研究の結果を紹介する。ミュンヘン工科大学では、2000〜2006年の7年間に渡り、樹齢60年、樹高約30メートルのヨーロッパブナ林にタワーを建て、成木全体へのオゾン暴露実験を行ってきた。ドイツの研究グループはオゾンの影響を調べる時に、樹冠の上部にある葉(陽葉)と下部にある葉(陰葉)の2つのカテゴリーに分けて光合成速度の比較を行っていたが、オゾンが陽葉、陰葉の光合成にマイナスの影響を与える年もあれば、影響を与えないばかりか逆にプラスの影響を与えている年もあり、オゾン影響について統一的な見解は得られていなかった。対象となるヨーロッパブナは、そのほとんどの葉が樹高にして3メートルの範囲に密集して存在しており、少しの位置の違いにより葉の受光量が大きく異なっていた。そのため、樹冠上部と下部という大きな分け方では、測定した個々の葉の受光量は一定でなく、生育する光環境の違いによる光合成能力のバラツキのためオゾンによる影響が不明瞭になっているものと考えられた。そこで、ヨーロッパブナ成木の個々の葉が実際に受ける受光量を考慮に入れて、オゾン影響の再評価を行った結果、生育する光環境にかかわらず、オゾン暴露により気孔が閉鎖し、光合成速度が低下することが明らかとなった。


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