| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
シンポジウム S07-6
現在、日本には光化学オキシダント(その大部分はオゾン)のモニタリングサイトが1200箇所近く存在する。またモデルシミュレーションによるオゾン濃度の推定精度も大きく向上しており、国内におけるオゾン濃度の分布は、かなりのレベルまで把握されてきている。一方で、日本の森林樹種に対するオゾンの単独影響に関しては、苗木を用いた実験から得られたデータが主ではあるが、ある程度の知見が得られている。しかし、これらの結果を統合した、特に全国規模のオゾンリスク評価については、ほとんど情報がないのが現状である。単純には「オゾン暴露量(濃度x時間)が高い方がオゾンリスクは高い」と考えられる。しかし、樹木のオゾンに対する感受性は樹種によって大きく異なり、各樹種の分布地域も様々である。さらに、樹種によっては窒素負荷によってオゾン感受性が変化することも報告されている。したがって「高オゾン地域」=「高リスク地域」とした単純なオゾンリスク評価には過大あるいは過小評価の可能性がある。そこで我々は、ブナ、コナラ、スダジイ、カラマツ、アカマツおよびスギを対象樹種として、実験的研究から求められたオゾン感受性の樹種間差異と窒素負荷に伴うそれらの変化、各樹種の分布、そして全国の光化学オキシダントや酸性降下物のモニタリング結果を、地理情報システム(GIS)によって統合し、日本の森林樹種に対するオゾンのリスク評価を行った。その結果、オゾンの暴露量が高い地域とオゾンのリスクが高い地域は必ずしも一致しないことが示された。その原因として、オゾン感受性の樹種間差異と、特にブナにおいて見られた窒素沈着量の違いに伴うオゾン感受性変化が挙げられた。本講演では、このリスク評価を紹介するとともに、現時点での問題点を提示し、今後のオゾンリスク評価の展開について議論したい。