| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
シンポジウム S07-7
広域大気汚染が陸上生態系に及ぼす影響は,様々な研究においてその重要性が認識され始めている.代表的な汚染物質であるO3の植物影響は多くの実験によって示されており,大気CO2濃度上昇や地球温暖化の影響評価においても考慮されている.化石燃料の燃焼によって生じる酸性エアロゾルも遠距離輸送され植物表面で高濃度に濃縮されて様々な影響を与えており,野外の水文学的過程に及ぼす影響も降水や渓流水の水質変化などの形で検出されている。一方,これらの汚染物質が野外の植物群集に与える影響を評価することは容易ではない。これらの汚染物質は,多くの日本の生態学者が慣れ親しんできた光や温度,CO2濃度のように自身で測定することが難しく,大気・環境化学者の協力が必要である。さらに,現地で実際に植物に負荷される量は微地形の影響を強く受け,植物表面では化学的・生理学的反応が活発に進行しているため,現場における環境化学的過程の評価が非常に重要である。その一方で,大気・環境化学者にとっては,大気中の化学物質の濃度や動態を測定・評価することができたとしても,それがどのように生態系の植物に影響を及ぼすのかを評価することは別世界の仕事に近い。植物生理学者は,化学物質が植物に与える影響やその機構を調節された環境で実験的に解析することは得意であるが,その結果から長寿命で複数種が混在する野外の植物群落に対する影響を予測するまでにはかなりの距離がある。そもそも,ここ数百年で1.5倍近く上昇した大気CO2濃度が野外植物群集へ及ぼしてきた影響を簡単に示すことすら難しいという現状がある。これらの課題を解決するためには,地球上にはもはや人為的な大気汚染影響を受けていない場所は存在しないことを生態学者が自覚し,大気環境影響を考慮した植物動態の解析手法を開発していくことが重要である。