日本は造礁サンゴ（以下、サンゴ）分布の北限域にあたり、沖縄から本州にかけて緯度の増加にともなって種数や群集構造の変化が観察される。分布北限域にあたる九州から本州に棲息するサンゴは、地球温暖化による水温上昇に対して敏感に応答すると考えられる。我々は、第一に、九州から本州にかけての緯度勾配に沿った海域でサンゴ分布調査を行い、サンゴ分布と種構成の緯度変異を明らかにした。その上で、南方に特徴的な種を用いてサンゴ分布の北上の可能性を検討した。過去の報告書のサンゴ出現記録をレビューし、現在のサンゴ分布と比較したところ、長崎県五島列島、千葉県館山でサンゴ分布の北上が示唆された。既存の報告（熊本県天草[野島・岡本, 2008]、和歌山県串本[野村ほか, 2006]）とあわせ、日本周辺の海域でサンゴ分布の北上が起こっている可能性が示された。