| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
シンポジウム S09-4
岩礁性タイドプールに出現する魚類を対象に、南北約1200kmにわたる群集パターンの地理的変異を明らかにし、その背景について考察する。
琉球列島を中心に日本南西部28地点で、夏期に調査を実施した。各調査地で20-40個のタイドプール(<1m2)を選択し、目視観察または全魚類の採集をおこない、出現種と個体数を記録した。
解析の結果、1)南ほど高多様度の場所があること(種多様性の緯度勾配、特に東海岸で顕著)、2)種数−面積関係や種の相対優占度は出現種数が同程度の地点間で類似していること(群集構造の共通性)、3)群集類似度と物理距離は反比例関係にあるが、距離の効果よりも南北グループ間の種の置換を反映していること(種子島・屋久島付近で主要種が置換)、4)南北の群集グループはそれぞれ東西のグループに細分できること、がわかった。
こうした地理的パターンをもたらす背景として、温度や地質などの環境条件および歴史があげられる。今回見られた南北の相違は、琉球列島における温帯種の欠如が寄与しており、温度以外に南北に流れる黒潮が温帯種の南方への分散を制限している可能性が示唆された。さらに、近縁種間で個体数の優占度が南北で逆転する場合があり、環境への適応と種間相互作用の変化も推察された。また、種多様性の緯度勾配および群集組成に東西で違いが見られた点は、海流のほか波あたりや風の影響の違いを反映していると考えられる。
生物群集レベルの地理的変異のメカニズム解明および環境変化に対する応答の予測には、各種の生息に適した環境条件とその変化への適応(基本ニッチ)を生理学的に明らかにし、集団遺伝学の手法で地域個体群間の交流・連結度(分散の程度と可能性)を求め、群集生態学の実験・解析手法を用いて種間相互作用(定着の可否)を検討する必要があると考える。