| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


シンポジウム S09-5

南西諸島におけるミドリイシ属サンゴの遺伝子流動

中島祐一(琉球大・熱生研)

南西諸島では1998年に造礁サンゴの多くが海水温上昇による大規模白化を受け、現在もサンゴが壊滅的な状況にあり回復が進んでいない海域が存在する。サンゴにおける個体群の維持・回復機構を考える上で、分散の程度を推定するために集団遺伝学によって個体群間の遺伝的なつながりの程度を把握することが重要である。さらに、緯度と遺伝的多様性との相関の有無を知ることは、個体群が遺伝的に衰弱しているかを推定する上でも有益である。もし高緯度になるにつれ生息する個体群の遺伝的多様性が低くなる場合、温度や日射量ようにサンゴを取り巻く環境が分布の限定要因となることでサンゴの分散が制限されることを意味する。本研究では、高感度DNAマーカーであるマイクロサテライトマーカーを用いて日本の南西諸島の7地域19地点、およそ1000kmという広範囲の海域において、南西諸島の温帯域を生息域北限とする放卵放精型サンゴのコユビミドリイシの集団遺伝学的な解析を行った。その結果、コユビミドリイシの遺伝的分化係数FSTはどの地域間でも0.035以下であり、遺伝的分化の程度は低かった。このことは、生息域北限海域を含む各地域間でコユビミドリイシの遺伝的なつながりが強いことを意味する。また、地理的距離と遺伝的分化の程度が相関することはなく、距離による分布制限が存在することも無いと考えられた。加えて、南西諸島においてコユビミドリイシは遺伝的多様性を減少させることなく生息域北限海域に分布していることがわかった。以上のことから、今後南西諸島において再び大規模白化が起きてコユビミドリイシが局所的に死滅することがあっても、他地域に同種の個体群が生存していれば、幼生の新規加入により回復可能であると推測される。さらにコユビミドリイシは、生息域北限海域まで遺伝的多様性を保持したまま、遺伝的に衰弱することなく分布が可能であると推測される。


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