| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
シンポジウム S11-2
和歌山県田辺市では2002年夏より、農作物被害の急増をうけてアライグマの捕獲が開始された。箱罠の貸し出し、捕獲個体の受け入れは田辺市農業振興課とJA紀南の各支所が窓口となり、対応している。アライグマ対策への理解と協力を求める活動として、講演会や報告書の発行、地元新聞への情報提供などを行ってきた。
捕獲されたアライグマは全頭回収され、記録されている。その数は、交通事故や狩猟を含めて2008年末までに869頭に達した。捕獲場所は、捕獲への参加・協力者の広がりに合わせて年々広がってきた。月別捕獲数は8月に20.0頭と高く、農作物被害の目立つ時期を反映している。捕獲個体の性別・年齢別構成は、0才47.9%(オス24.7%、メス19.4%)、1才以上の成獣52.1%(オス29.8%、メス22.3%)だった。県内のアライグマ遺伝子分析結果から、有田郡以北の県北部と日高郡以南の県中部・南部では、集団の遺伝子型が違っており、野生化の由来やその後の繁殖の経過が異なっていると考えられる。寄生虫検査から、アライグマ糞線虫(外来寄生虫)が検出されている。2007年春には、田辺市のタヌキにジステンパーが流行した。その後の抗体検査から、アライグマもジステンパーに感染していたことが判明し、その流行の拡大に関与していた可能性がある。
アライグマの増加と分布拡大は今後とも進むものと予想される。農作物被害や住宅への進入被害だけでなく、在来生物相への影響や寄生虫や感染症による公衆衛生上の被害も予想される。現状での目に見える被害対策としての捕獲だけでは、アライグマの封じ込めは難しい。早期の捕獲こそが、もっとも有効な対策であることは間違いなく、より一層多くの方々にアライグマ対策の必要性への理解を求め、そして、捕獲作業への参加・協力を募ることが重要だろう。