| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
シンポジウム S17-2
トキの主要な絶滅要因として、土地開発や農業の近代化による餌生物の減少が挙げられている。そのため、野生復帰したトキが長期的に個体群を存続できるためには、その餌資源の復元が重要課題である。トキの食性は、魚類、両生類、昆虫類など多岐にわたることが知られているが、なかでもドジョウ、ヤマアカガエル、バッタが重要と考えられる。これらの生物量を増進させるには、局所環境(例えば水田)の整備・再生とともに、広域スケールでの生息適地(生息地ポテンシャル)を推定することが必要である。その理由は、局所環境の改善がもたらす効果は、その周辺の景観構造によって状況依存的に大きく変化すると考えられるからである。そこで我々は、これら生物の個体数を決定する環境要因を局所と景観の2つの空間スケールから明らかにし、費用対効果の高い再生候補地を抽出することを試みた。
小佐渡地域の多数の地点(ドジョウ:河川、カエルとイナゴ:水田)で個体数と局所環境の調査を行うとともに、地理情報から景観変数を抽出し、重回帰分析と情報量基準を基にしたモデル選択を行うことで、個体数に影響する要因を明らかにした。その結果、ドジョウとイナゴは平野部に広がる水田地帯でポテンシャルが高く、ヤマアカガエルでは森林と水田が適度の混在する景観でポテンシャルが高いことがわかった。さらに、ヤマアカガエルにおいては、大佐渡地域の水田では、小佐渡地域で予想されるよりも明らかにポテンシャルが低いことがわかった。その理由として、今回の解析よりも大きい空間スケールでの生息地の連続性が関与していることが考えられた。以上の結果より、餌生物を豊かにするための自然再生の効用は、対象種群や周辺景観により大きく変化することが示唆された。今後は、実際のトキの行動を基に、費用対効果の高い再生適地の更なる絞込みを行う予定である。