| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
シンポジウム S17-4
トキは水田や河川などの湿性環境を主な採餌場所とし、新潟県佐渡島では、その環境の約8割を水田が占める。従って、圃場整備や耕作放棄などにより、エサとなる水生生物の生息数や生物多様性が低下した水田をいかに再生させるかが、トキの生息環境復元のポイントとなる。演者らは、生物量や生物多様性を高め、かつトキの好適な採餌環境として水田を再生・維持するため、生態学的評価に基づく水田管理手法の確立をめざし、水田内への通年の湛水環境の実験的創出が、水生生物群集に与える効果に着目した検証を行ってきた。通年湛水の新規創出方法として、耕作水田を対象とする場合には「江(え)」と呼ばれる小土水路を創出し、休耕田を対象とする場合には「通年湛水」という処理を行い、比較対象として未処理の水田を近隣に設置し、森林からの距離に基づく水田の立地環境(里山および平野)の違いとともに、年間を通じて生物現存量および種多様性の評価を行った。さらに、水田生態系における生物多様性の規定要因を明らかにするため、安定同位体比分析により食物網構造を評価した。その結果、通年湛水環境の創出の初年から、水生生物の生物量および種多様性は増加し、その効果は2年目でも継続的に認められた。特に水生昆虫では、平野よりも里山の水田の方がより効果が高かった。水田内の食物網構造は、水中の懸濁態有機物(植物プランクトンを含む)と表泥上に堆積した有機物が一次生産者(物)であり、魚類が最高次の消費者であった。この構造は立地環境によらず、江と湛水休耕田の両方で共通していた。一方、一部の水生昆虫類は、上述の水田内の食物網に属さないと考えられ、このことは、水田の水生生物の種多様性が、水田内の食物網に属する生物と、水田外の食物網から水田内へ移動してきた生物の両方で構成されていると推測された。