| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


企画集会 T01-2

植物-土壌と渓流とのつながり:人工林伐採撹乱とその回復過程に着目して

福島 慶太郎(京大フィールド研)

近年,手入れ遅れの人工林再生にむけ,皆伐や間伐,広葉樹林化など様々な施業が模索されている。森林施業は森林生態系に人為的な撹乱を加える。皆伐は大規模な人為撹乱であり,皆伐によって渓流水質が変化し,渓流生態系や下流域生態系に大きな影響を与えることが知られている。

本研究の調査地である奈良県十津川村のスギ人工林では,皆伐後渓流水中の硝酸濃度が皆伐前の15倍程度にまで上昇した。皆伐・植林後,人工林の成立に伴って水質はおよそ15年程度で皆伐前の状態まで回復した。一方,皆伐・植林から5-10年経過すると,根による土壌緊縛力が弱まり,斜面崩壊の発生確率が最大になることが示されており,渓流の河床堆積物や河畔環境にも伐採の影響が経年的に変化するといえる。そこで渓流の河床や渓畔の環境に大きく依存する水生生物相に着目し,その食性を摂食機能群と炭素・窒素安定同位体比から検討した。その結果,伐採直後には藻類食者・リター食者が混在していた。土石流の発生後間もない15年生のスギ林では藻類食者が優占しており,40年生スギ林やモミ・ツガからなる天然林では主にリター食者が優占していた。以上のように,渓流水質と河床・河畔環境は,共に皆伐の影響を強く受けるが,植栽木の成長に伴ってそれぞれ異なる過程を経るといえる。すなわち,皆伐・植林後渓流水への栄養塩流出が単調に減少するのに対して,人工林の成立過程で発生する斜面崩壊によって河床構造や河畔環境に再度撹乱が加わり,水生生物相の変化を引き起こす可能性が示された。

また,一定量の木材を伐採する際に,全域を満遍なく抜き切りする間伐と,部分的に皆伐地を造成する施業とで,渓流に与える影響をシミュレーションモデルを用いて比較した結果,間伐の方が部分皆伐よりも渓流への影響が小さいことが示された。渓流水質や水生生物相を保全する森林施業を行うためには,皆伐面積を低くすることが重要であるといえる。


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