| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


企画集会 T01-4

流域と流程とのつながり:集水域景観と食物網構造の流程変化に着目して

石川 尚人(京大・生態研)

河川生態系のネットワーク構造は、流域(陸域-水域)と流程(上流-下流)という2つの空間軸から構成されている。このうち流域スケールの研究は、特に森林と河川とのつながりについて様々な角度から明らかにされており、この分野の発展は著しい。これに対し、流程スケールの研究は欧米では報告があるが、急峻な地形を特徴とする日本河川での報告例は稀である。さらに流域スケールの研究の中でも土壌や地質的な要素に着目した研究例は少なく、河川集水域の中で個々の生態系がどのようにつながっているのかはまだほとんど分かっていない。

そこで、本講演では流域、流程という2つの空間軸に着目した生物地球化学・生態系生態学的な研究のレビューと共に、流域の植生だけでなく、土地利用、母岩形態の違いが河川生態系の食物網構造や物質循環に対してどのように影響するのかを、生物の炭素・窒素安定同位体比(δ13C・δ15N)および放射性炭素の天然存在比(Δ14C)を用いて検証した研究例を紹介する。14Cは時間と共にベータ崩壊を起こし、5730年の半減期を示すため、Δ14Cは環境中の炭素滞留時間を明らかにすることができる。ここでは、Δ14Cは地下部に由来する年代の古い炭素と現在の大気CO2との混合で値が決まり、その流程変化は天然のトレーサーとして河川内の炭素動態の指標となると予測する。この予測のもと、集水域の景観要素が異なる河川の上流と下流において、生物のδ13C・δ15N・Δ14Cを測定し、食物網構造の流程変化を検証することにより、流域と流程とがどのようにつながっているのかを考察する。

本講演から、河川生態系のネットワーク構造を理解する新しい視点を提案すると共に、その可能性について議論したい。


日本生態学会