| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


企画集会 T06-1

複数種の加害による選択圧とその応答:量的遺伝学からみた群集と進化

巖圭介(桃山学院大)

食うものと食われるものの相互作用、とくに植物と植食者の相互作用において、その関係が厳密に1対1であることは少ない。多くの場合、1対多、あるいは多対多の関係にある。1対多の場合、複数種の側が他方に及ぼす選択圧とそれに対する進化的応答は、単純に個々の独立した1対1関係の総和ではなく、拡散(diffuse)したものになる可能性が高い。1植物とそれを食害する複数植食者の間の進化的相互関係において、各植食者との進化的関係が相互に独立した関係であるかどうかは、次の3つの要因を考えなければならない。まず、それぞれの植食者に対する植物側の抵抗性(食害されにくさ)が遺伝的に独立であるかどうか。次に、植食者の食害パターンが他の植食者(の食害)の存在と独立であるかどうか。3つ目に、各植食者による食害量とその植物の適応度の関係(耐性)が、他の植食者の食害と独立であるかどうか。これら3つのうちひとつでも独立でないものがあれば、植物と各植食者の相互関係は互いに独立には進化せず、拡散的な進化が起きると予測される。3つの要因を個々に分離して分析するには、個々の植食者の存在や食害量をコントロールした操作実験を繰り返す必要があるが、いずれの要因もすでにさまざまな系で少なくとも表面的には観察されていることであり、群集全体を考えれば拡散的進化は珍しいものではないと予想される。そうした拡散的進化の結果として、植食者群集に対して植物の側の抵抗性あるいは耐性が形成され、それに呼応して植食者群集が成立していると考えるならば、群集構造を理解する上で拡散的進化の視点が不可欠であることは間違いないだろう。拡散的か否かという単純な問いを超えて、その有無が群集構造にどのようなパターンを生み出すかを考えなければならない。


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