| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


企画集会 T06-2

植食者に働く拡散的な自然選択:インターフェースとしての植物の食害応答

内海俊介(ヨエンスー大学)

陸上植物はさまざまなタイプの植食者や病原菌によって常に損傷を受ける。損傷を受けた植物個体は、その表現型を可塑的に変化させる食害誘導反応を示す。その際、食害の種類に応じて特異的な反応を示すこともよく知られる。もし、食害誘導反応が植食者の形質進化に影響を及ぼす場合、局所的な植食者の種構成などに依存して植物の表現型発現に変異が生じることによって、植食者の多様な形質進化が生じるかもしれない。

ヤナギルリハムシ(以下ハムシ)は、春から秋にかけて連続的に出現するヤナギ科植物のスペシャリスト植食者である。この成虫は一般に、きわめて強い新葉選好性を有する。しかし実際には、局所個体群によって選好性の強さが異なり、新葉と成熟葉の間で選り好みをしない個体群もあることが見出された。われわれのこれまでの一連の研究は、この地理変異が、再生長反応というヤナギの食害誘導反応の強度の違いに対応した局所適応である可能性が高いことを示している。これは、再生長反応の強度に応じて新葉生産が大きく決定されるためである。さらに、その後の野外調査から、再生長反応の強度には植食者の局所群集の構造が強く関わっていることが示唆された。また、群集操作実験から、植食者の群集構造(種組成)の違いによって誘導反応のパタンが異なり、それに対応してハムシの選好性に対して異なる強さや方向の自然選択がかかることが示された。この現象は、植物の食害誘導反応がインターフェースとなって、植食者群集の構造が間接的に植食者の形質に作用する拡散選択としてとらえる事ができるだろう。本集会では、これらの成果を紹介し、今後の展望について議論したい。


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