| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
企画集会 T06-4
相利共生とは、相互に関係する生物種が互いに相手から利益を受ける関係であり、あらゆる生態系にみられる。しかし、相利共生は状況に応じて変化し、時として解消される。例えば、アリとアブラムシの関係は、アブラムシが甘露を提供するかわりに、アリがアブラムシの天敵を排除するという、良く知られた相利共生の一つであるが、アリ−アブラムシの関係は生態的あるいは進化的に変化しやすく、相利から片利、さらには敵対にいたるまで多様な形態が存在する。このようなアリ−アブラムシ系における関係の変異の創出やその維持機構について、これまでの研究ではアブラムシがアリに随伴されることに対するコストと利益を考慮した最適化理論が用いられてきたが、その範疇に収まらない例が多い。したがって、アリ―アブラムシの2者間の相互作用だけではなく、第3者を含めた複数種間の相互作用について解析する必要がある。
アブラムシの天敵にはテントウムシ類や寄生蜂などがみられ、それらの天敵間にはギルド内捕食などの相互作用が存在する。例えば、大型のテントウムシは、ギルド内捕食者として寄生蜂の個体数を抑制する。アリはこうした寄生蜂を寄主個体ごと捕食してしまう大型テントウムシを排除してくれる。そのため、アブラムシに引き寄せられたアリは、ある種の天敵に対しては生息できない「空間」を生み出し、また別の天敵に対してはアブラムシを効果的に利用できる「採餌場所」を提供することがあると考えられる。本講演では、このようなアリ−アブラムシ系を複数種の生物が関わる相互作用として捉え直し、相利共生の動態について議論する。加えて、アリ−アブラムシの相利共生とアブラムシの天敵群集の地理的パターンを調べ、それらを基にしたシミュレーションの結果を紹介する。