| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


企画集会 T08-2

微生物生態系の研究におけるデータベースの役割

山本啓之(JAMSTEC)

微生物が系統的なデータベースとして取りまとめられ公開された最初は分離菌株リストである。その目的は、感染症においては病原性の確認、検査法や治療法の開発に加えて、流行傾向や感染源の調査という疫学研究に使われた。1990年代になると分離培養により得られる菌株データだけでなく、遺伝子塩基配列が微生物のデータベースとして重用された。日欧米の国際ネットワーク( DDBJ/EMBL/GenBank)による塩基配列データベースのが確立すると、微生物研究におけるデータベースの役割は格段に大きくなる。特に、遺伝子検出と塩基配列解析の技術革新は、分離培養ができない微生物から遺伝子データを読み出すことを可能にし、膨大な塩基配列データが蓄積する状況を生み出した。この膨大な遺伝子データがインターネットに公開されていたことは、自然原理にもとづく微生物の分類体系と系統進化の再編を可能にした。微生物生態系の調査研究においては、遺伝子データベースは生息分布の調査研究に利用され、微生物生息の地域性や広域性が明らかにされてきた。一方、従来の塩基配列データを基準したデータベースでは環境条件や検出日時などのメタデータが不足しており、変動を基準にした解析を難しくしている。この問題に対応するために幾つかのデータベース(GBIF、ILTER、Worms、ICoMM、MiroMar、BISMaLなど)が公開され、微生物から動植物にわたる多様な生物のデータを蓄積し始めている。微生物は動植物を含むあらゆる環境に生息しており、その生態系での機能や役割は単純ではない。気候変動など自然界での変化を視野に入れた調査研究のためには、生息環境での時系列データが必要である。


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