| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
企画集会 T08-3
海洋における微生物の生態研究を通して生物多様性、生態系、物質循環を統合的に扱うことを目指す「微生物海洋学(Microbial Oceanography)」という研究領域が形成されつつある。本講演では、具体的な研究例を示しつつその背景と現状、将来展望についてご紹介したい。環境中に生息する微生物は、そのほとんどが難培養であるため、環境試料から微生物群集DNAを直接回収することによって多様性や分布が明らかにされてきた。最近では、メタゲノミクスと呼ばれる環境DNA試料を対象とした網羅的な塩基配列解読によって、環境中の未培養微生物のゲノム情報が急速に蓄積されつつあり、一部では環境微生物ゲノムのデータベース構築も進められている。これら環境ゲノムデータベースの特徴は、ゲノムデータだけでなくそれに付随する環境情報(日時、緯度、経度、その他物理・化学・生物環境パラメータ等)いわゆるメタデータが整備されようとしている点である。また、近年の衛星観測網や全海洋に整備されつつあるフロート観測網によって、ほぼリアルタイムで海洋環境の基本情報を居ながらにして得ることができるようになりつつある。これまで、環境ゲノム情報は、他の環境情報に比べて高価なため、その蓄積速度は比較的遅かったが、数年前に桁違いの解析速度と低ランニングコストを実現した超並列シーケンス技術が登場したことによって状況は一変した。この技術は、生命科学や医療に一大変革をもたらすと同時に、環境ゲノムデータの情報量を爆発的に増大させると予想される。つまり、生物あるいは生物の遺伝情報とその生息環境との関係について理解しようとする場合、少なくとも海洋微生物に関しては全地球規模の生態系システムの中で比較解析してゆく時代が到来しつつある。