| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
企画集会 T12-4
アユは人にとって特別である。食しておいしい上に釣り魚として人気が高く、内水面漁協にとってアユの遊漁料は重要な収入源である。1年性回遊魚のため、ダムや堰の建設に伴う「補償放流」も含めて大量放流が行われてきた。ここでは、放流アユがカワウの餌資源としてどういう意味があるのかを、単一の繁殖コロニー(またはねぐら)周辺という局所スケールと関東一円という広域スケールで検討する。
局所スケールで放流されたアユにカワウは誘引されるのかというと、防除活動の影響を排除できないこともあって、まだはっきりしない。栃木県鬼怒川では放流地点周辺のカワウ利用率は放流前に比べて放流後に増えなかったが、山梨県の富士川水系ではもう少し大きな漁協単位のスケールでカワウは放流河川にシフトした。防除活動の影響については、接近可能距離による評価から、銃による駆除やロケット花火による威嚇がカワウの警戒性を高めることが確認できた。しかし、防除活動を行える時間は限られているので、カワウがアユ放流に誘引されるのをどの程度抑制できているかは不明である。
広域スケールで見ると、アユの放流量や遡上量と近辺のカワウ個体数には相関がなく、アユが河川に生息する春から秋にはカワウはむしろ沿岸部に多い。ただ、この時期の河川ではアユが優占種となっているところが多いので、ダムなどによりアユが遡上できない河川でアユ放流を中止すればカワウの繁殖個体数が減る可能性はある。
アユは内陸で繁殖するカワウにとって重要な餌であるが、それは元来アユがこの時期の河川で優占する魚種だからである。カワウの捕食圧があってもアユの現存量は春から夏にかけて増加することや、関東では繁殖期にはカワウ個体数の分布が沿岸部へシフトすることも考え合わせると、放流アユとカワウの関係はお互いにそれほど密なものではないと思われる。