| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


企画集会 T13-1

生理・生態学的研究からみる魚類の水田への適応と成果の実践的応用 〜アユモドキを事例に〜

阿部司 (岡山大・院・理)

水田環境の変化は、氾濫原の代替地として水田を利用する魚類の減少を招いた。その象徴的な種が国の天然記念物にも指定されているアユモドキParabotia curtaである。本種は、岡山県の数河川と琵琶湖淀川水系でごく一般的な魚だったが、現在では絶滅に瀕している。効率的に保全するため、本種の謎の多い生態を、定量的な捕獲や行動観察、バイオテレメトリーなどの野外調査と飼育環境下での行動実験で調べた。血中ホルモン濃度の動態を行動変化の指標にする試みにも取り組んでいる。これまでに、アユモドキの河川と水田地帯(本来なら氾濫原)の間での回遊や、繁殖場所への移動と産卵の環境及び内分泌要因、仔稚魚の生育環境と分散・降河などの情報が得られている。この回遊に加え、氾濫原環境の形成直後に一斉に行なうばらまき産卵や胚の迅速な形態形成と早期の孵化、仔魚の付着行動なども観察され、これはらは水田を含む氾濫原環境への適応戦略と考えられる。氾濫原環境への適応戦略には、アユモドキとその他の種間で一般性および多様性がみられ興味深く、この点に保全のカギがあるだろう。アユモドキのように季節的に形成される氾濫原環境に強く依存した種ほど、今日の管理された河川や水田地帯では繁殖し難い。具体的な課題として、産卵場の不足や堰による移動阻害、農作業に伴う生息地の急激な水位低下なども明らかになった。そこで、アユモドキを核とした水田生態系の保全と活用に向けた取り組みを、地域・行政・保全団体・企業等と協力し展開している。繁殖場所の整備や増設といった対策に加え、シンポジウムや絵画展、飼育展示、水辺学習会などの啓発活動で地域の保全に対する認識も高まりつつあるが、一方で保全と農業との間には課題も多い。


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