| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
企画集会 T13-3
日本人は田畑で作物が取れるのは“神様からの恵み”であり,人の力ではないとする独特の思想を持ってきた.自然は人々に恩恵と災いをもたらす存在であり,自然に感謝しバランスを保ちながら生活してきた.しかし,人々は経済的により豊かに,効率化・省力化に傾倒し,この自然との関わり方と異なる生活スタイルに変化させた結果,周辺から得られてきた様々な“神様からの恵み”を失うこととなる.
そこで,自然から得られる“神様からの恵み”を生態系サービスのバロメーターとし,日本各地で自然再生が積極的に行われている.では,この希少種のために,だれがどこで何を保全すべきか?―この問に科学のみで答えることは容易ではない.水田地帯は人々の食糧を生産する私的空間である一方で,童謡「春の小川」や「ふるさと」に詠われ,日本人なら誰しもが心に浮かぶ文化的景観を形成し,希少種の生息場としても利用される公共性・公益性の高い空間である.このことがこの問を難しくしている要因であろう.この水田地帯では,それを使い,生活し,維持管理する農家,公益性を享受する地域内外の一般住民,そこを訪れる研究者,事業を実施する行政機関などが納得できる解に落とし込む合意形成技術が必要であろう.
そこで本報告では,徳島県で絶滅したと考えられていたが58年ぶりに再発見された絶滅危惧種カワバタモロコを例に,保全対象となる農業水路の総延長が20km以上に及ぶ中で「どこを」「どのようにして」保全すべきかを地図表現手法としてGISを用いて示す.生態学研究者の解,農家側からの解,水路整備事業者からの解をあわせるとどうなるのか.これは成功した事例ではなく,失敗した面もあるが,その試行錯誤が今後の保全に役立つものと考え,紹介したい.