| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


企画集会 T14-3

「絶対送粉共生系は種多様化を促すのか?: コミカンソウ科ーハナホソガ属共生系の起源と進化」

川北篤(京都大)

生物種間の共進化は、種分化や多様化を促す最も主要なプロセスの一つである。例えば、陸上生態系における植食性昆虫の繁栄には、被子植物との共進化が大きな役割を果たしており、被子植物が適応放散を遂げた背景には、送粉者との共進化が深く関わってきたと考えられている。しかし一般に多様化をもたらす要因には、異なる環境への適応や地理的隔離などさまざまなものがあり、共進化がどのように、またどれほど系統群レベルでの多様化に寄与しているかについては、まだほとんど明らかにされていない。

イチジクとイチジクコバチ、ユッカとユッカガの間で古くから知られる絶対送粉共生系は、共進化の古典的な例であり、植物と昆虫の双方が多様化を遂げた好例である。近年、多様化を伴った絶対送粉共生系の第三の例がコミカンソウ科とハナホソガ属の間で発見された。ハナホソガ属の蛾(以下、ハナホソガ)は幼虫がコミカンソウ科植物の種子を加害する種子食者であり、花に産卵に訪れる雌は、幼虫の餌となる種子が確実に生産されるように、自ら能動的に送粉を行う。コミカンソウ科では、1200種のうちのおよそ500種が、それぞれ種特異的なハナホソガによって送粉されており、系統解析の結果から絶対送粉共生はコミカンソウ科で少なくとも5度独立に進化したことが分かった。またハナホソガと共生関係にある種群と、異なる送粉様式を持つ姉妹群との間で種数を比較したところ、いずれの比較においてもハナホソガに送粉される種群において種数が多く、絶対送粉共生がコミカンソウ科植物の多様化を促したことが示唆された。さらに、異なるハナホソガによって送粉される地理的集団をもつコミカンソウ科の種では、ハナホソガが寄主を探索する際に用いる花の匂いにも大きな地理的変異が見られ、化学シグナルをめぐる両者の共進化が、植物の種分化を引き起こす鍵となっていることが分かりつつある。


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