| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
企画集会 T15-4
生態系指標の広域マッピング、あるいは人為管理の影響予測やリスク評価には、実測に基づく分析だけでなく生態系モデル解析が有用な手法となる。生態系モデルには、生物間相互作用に起因するダイナミクスを表す数理的なモデルから、生態系の持つ様々なプロセスや機能を定量的に評価する数値的なモデルまで様々なものがある。生態系指標のマッピングに用いられるモデルは主に後者のアプローチをとっており、エネルギーや物質の収支を、環境要因と生物要因に基づいてシミュレートしている。例えば、森林など陸域生態系の水源涵養機能は、地表面からの蒸発散と河川への流出を計算し、水収支式を解くことで評価することができる。同様に炭素貯留機能は、光合成による固定と呼吸・分解による放出を計算し、炭素収支式を解くことで評価される。このようなモデルは研究ベースの解析に用いられてきたが、地球環境問題に直面している現在、様々な分野への応用が期待されている。実際に、このようなモデルを用い、リモートセンシングと組み合わせるなどして、広域マッピングが試みられてきたが、いくつかの問題点も認識されるようになっている。第一に、実際の環境問題(例えば森林破壊の影響評価など)にモデルを利用する場合、特に国際交渉が絡むような段階では、非常に高い数値的信頼性が求められるが、現在のモデル推定にはなお大きな不確実性が含まれているだろう。第二に、多様な生態系指標を網羅的に評価できるモデルは開発されていないため、統合的な解析は未だ困難である。例えばCO2交換を扱えるモデルは多いが、同じ温室効果ガスであるメタンや亜酸化窒素も同時に扱えるモデルは少ない。特に、生物多様性をどうモデルで表現するかは大きな問題であろう。本発表の最後には、モデルを用いた生態系サービス評価を行う上での課題と、今後の研究について論じることとする。