| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
企画集会 T16-4
日本やヨーロッパにおいて長期的に蓄積されてきたフェノロジーデータは、これまでの環境変動が生物圏に及ぼしてきた影響を検討する上で非常に貴重なデータセットとなっている。近年、その解析により、世界的な気温上昇によって動植物のフェノロジーが大幅に変化してきていることが数多く報告されつつある。その中でも特に落葉植物の着葉フェノロジーの動向については、光合成・蒸散を介した植物の環境調節機能にも大きく影響しうるため、将来の気候変動を左右する重要なファクターの一つとしても注目されつつある。IPCC(2007)では、気温上昇により落葉植物の生長期間(着葉期間)が長期化傾向にあり、これにより植生の炭素固定量も今後増大する可能性があるとしている。しかし、フェノロジーの変動が植物の環境調節機能に及ぼす影響については未だ不明瞭な点が多い。例えば、一般的に葉寿命が長い植物ほど光合成速度は低くなることが知られており(Chabot & Hicks, 1982; Reich, 1992)、仮にこの考えが同一種における葉寿命の長期変動にも適用できるならば、生長期間の長期化は植物の年間炭素固定量にはさほど影響しない可能性がある。さらに、生長期間の長期化は生態系呼吸量の増大につながる可能性があり、CO2の放出成分が相対的に増大することも考えられる。そのため、本発表では主に植生のガス交換を介した環境調節機能に注目し、それに対し気候変動とフェノロジーの変化がもたらす影響について要点の整理を行い、今後の課題について議論を深めていきたいと考えている。