| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
企画集会 T17-3
自然界における有機物は生物による生成物であるが、河川水中では生物が利用する資源でもある。本発表では河川調査結果に基づき、河川中下流部における有機物の粒径別流下特性と粒状有機物の分解過程を中心に議論する。
人為影響の比較的小さい温帯河川(イタリア、タリアメント川)を対象とした調査結果より、中流域において粒径別有機炭素の年間の流下量は溶存有機物(DOM: < 1μm)で32%、微細有機物(FPOM: 1μm-1mm)で68%、粗大有機物(CPOM: > 1mm)で0.01%と推定された。流量との対応では、DOMは平均水位での輸送量が最大であったが、FPOMの約9割は洪水時に輸送されることが示された。ただし、有機物の組成分析より洪水時のFPOMの8割は土壌由来の難分解性有機物であることから、粒状有機物は洪水時には輸送体として主に機能し、流量安定時には濃度が低いが生物利用性が高まることが推測された。
後半では有機物の生分解過程に関する実験結果を主に紹介する。粒状有機物の分解過程にはさまざまな生物が関与するが、微生物とヨコエビ(Gammarus spp.)を用いた分解実験より、粒状有機物が微生物や底生動物に分解・破砕されるとその化学的組成が均質化することが示された。落葉に比べるとFPOMの窒素含有量は増加するが、リグニン含有量は高くなり(20.5〜45.6%)となり、小型化に伴い生物分解性は低下すると考えられる。一方で、粒状有機物からのDOM生成を調べた結果、微生物分解が卓越する段階では、CPOMとFPOMのDOM生成速度は同程度であり、河川におけるFPOMの存在量を考慮すると河川での有機物変換過程においてFPOMは重要な役割を担っていることが示唆された。