| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


企画集会 T17-5

河口干潟における有機物の動態

佐々木 晶子(広島大学)

河川の最下流域に成立する河口干潟では、現地藻類の生産に由来する在来性有機物が存在するだけでなく、流入河川を介して陸域に起源を持つ外来性有機物が供給される。河口干潟に貯留されたこれらの有機物は、微生物や底生動物に餌資源として利用され、最終的に無機化されることによって除去される。本発表では河口干潟における有機物動態に関する話題として、これまでに得られている以下の知見を紹介する。

(1)微生物による有機物無機化量:微生物による年間有機物無機化量を、堆積物表面からのCO2放出速度とその温度依存性をもとに推定した結果、流入河川からの有機物負荷量や底生微細藻類による生産量の約2割に相当する値であった。また河口干潟では、微生物による有機物の分解活性が潮汐の影響を受けて変動することも示された。(2)底生動物の摂餌・営巣行動が有機物動態に与える影響: 河口干潟の代表的な堆積物食者であるスナガニ類の摂餌行動が有機物動態に与える影響を検討したところ、微生物による無機化量に相当する量の有機物を餌として堆積物から濾し取っていることが示唆された。また堆積物中深くまで巣穴を形成し、強い生物攪乱作用を持つとされるアナジャコを対象とした調査では、巣穴の有る場所では無い場所に比べて堆積物表面からのCO2放出速度が最大で80%も高いことが明らかになり、河口干潟では生物による摂餌という直接的な活動だけでなく、営巣という間接的な活動も有機物動態に影響を与えていることが示された。以上のように、河口干潟は河川流域の最下流部に位置し、そこに生育する生物による利用を通して、陸域から沿岸域への有機物負荷を緩和する役割を果たしている。


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