| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


企画集会 T18-5

両生類の感染症カエルツボカビは日本から運ばれてしまった!

五箇公一・鈴木一隆(環境研)

カエルツボカビ菌とは両生類の皮膚に特異的に寄生する真菌の一種である。両生類の感染症・カエルツボカビ症の原因とされ、世界各地で近年急速に分布を拡大している。その起源は、実験動物として世界的に流通しているアフリカ原産アフリカツメガエルと考えられていた。1990年代から世界中で本菌による両生類個体群の壊滅的被害が報告される中で、アジア地域だけは、本菌の発生が確認されていなかったが、2006年12月に日本国内に輸入された南米原産のペット用カエルからカエルツボカビが発見された。本菌の侵入によって日本の両生類が絶滅の危機に立たされた、と多くの生物学者が警鐘を鳴らし、マスコミも大きくこの話題を取り上げた。あれから3年の月日が過ぎた。結局、両生類の大絶滅という事態は一度も確認されず、カエルツボカビはまるで死語と化しつつある。冷静に見直せば、アフリカツメガエルは日本には1950年代から輸入されており、現在も大量に輸入・飼育されていること、そして1990年代から中南米やオーストラリアなど、カエルツボカビ症の被害が著しい地域からもペット用に大量の両生類が輸入されていたこと、などから、日本ではカエルツボカビ症のpandemicはとっくに起きていて然るべき、という点がもともと疑問として存在した。この3年間に我々が日本国内外の野生両生類を調査した結果、日本にはオオサンショウウオを含め様々な在来両生類にカエルツボカビ菌が存在しているが発症はせず、DNA分析の結果から日本国内のカエルツボカビ菌の多様性は他国と比べて非常に高いことが明らかとなり、さらに感染実験の結果、日本の両生類に寄生しているカエルツボカビ菌は、外国産両生類に対して病原性をもつことも示された。以上の結果から、実は、カエルツボカビ菌の起源は日本を含むアジアにあるのではないかという、新しい仮説が提唱された。


日本生態学会